働くセーター何度でも

着心地の良い『働くセーター』を編むには
最初の編み出しが大切になります。
別鎖の編み出し糸が、編み糸に対して細すぎないこと。
鎖編みの緩みが1段目の引き出しやすさに繋がります。
編みはじめの1段目が小さくなりすぎると、その後の編み目にも影響してしまいます。
また、衿から肩先へ向かって、このくらいの角度でゆるやかに広がること。
この広がりが、『働くセーター』の軽い着心地につながっています。

ラグラン線は、目の増やし方の割合を少しずつ変えることで、肩のラインに自然に沿うよう設計しています。
編み始めの数センチに、その後の編みやすさと、着心地のほとんどが詰まっています。
編み直しの先には、必ず違う景色が見えてきます。
雨音の中で考えるウールの効用を

連日続く雨を聴きながら針を動かしていると、
湿気のせいか、Shetland yarn独特の干し草の匂いが
いつも以上に立ち昇ってきます。
この香りが好きで編んでいると言っても過言ではなく、
セーターが編み上がり、仕上げ洗いをすると薄まるものの
それでもふわりと太陽を孕んだような残り香には、
他の素材では感じ得ない安心感があります。
先日、昨年のネパールを共にした友人に
「次の山には働くセーターをレイヤーにしたい」と宣言のようなつぶやきを送りました。
すると帰ってきた返事には、私もお会いしたことのある冒険家・新谷暁生さんは海でも山でもセーターを愛用したという。そのウェアについてのレポートが添えられていました。
その中の一節に線が引いてあって
「ウールなど天然素材は野外に必要不可欠な素材だ。
ウールはその繊維の特性から濡れても体温を保つ。」
とあり、またひとつウールの特筆すべき点を教えてもらいました。
そこで思い出したのが自分の体験で、
冬のある日、発熱しながらも編まなければならない、差し迫った仕事があり、私はシルクのアンダーシャツ、ネル生地のシャツを挟み、自分で編んだウールのカーディガンを着込んで仕事をしていました。
編みながら熱がピークに達し、身体中から汗が出ると、
自然と熱は下がっていきました。
仕事が一段落して休もうとカーディガンを脱ぐと、
カーディガンの背中一帯にびっしりと水滴が付いていました。
部屋にいたのだから、上から降ってくるわけもなく。
しばらく不思議だったけど、それは自分の汗でした。
シルクや綿を通って、ウールの外に汗がすっかり抜けたんだと合点しました。
ウールのおかげで、仕事も自分も命拾いしたような気持ちになって、保温性と防湿性を持つウールの恩恵にあやかったと、その日はつくづく感じていました。
今日仕事をしながら、新谷さんの言葉「濡れても体温を保つ」を思い出していると、
びっしょり汗をかくほどの高熱を出しながら、体を冷やすことなく回復に向かえたは、カーディガンのおかげで、
汗を掻いても体は冷えなかったということに、ようやく理解できたのです。
またひとつ、ウールの認識が深まりました。
自分の体で感じたことと、新谷さんの言葉が繋がった瞬間でした。
そんなことを考えながら、
プールの底にいるような雨音ばかり響く部屋で、針を動かしています。
私とtokyobike

私も愛用するtokyobike。
まさか自転車のことで取材をお受けするとは、夢にも思っていませんでした。
この写真は、tokyobikeのカメラマン橋原さんに撮っていただいた写真の中の1枚です。
私にとって自転車に乗ることは、作ることと同じで、生きる上で、すぐそこにあったものだからです。
あの1日は「取材をお受けする」というよりも、tokyobikeの谷澤さん、橋原さん、そしてライターの瀬谷さんと、それぞれの生き方と対話を重ねる時間でした。
エベレストベースキャンプへのトレッキングが途中棄権となったあの日から、私はそれを引き金に過去の様々な「途中で取り上げられてしまったこと」に引き戻されました。
みんなを待つ間の長く続いた無音の時間に、自分の立ってる場所により敏感になり、自分の感覚と言葉を繋ぐことが難しくなっていました。
(このことは、また改めてちゃんと書ければいいのだけれど。)
自分のこれまでの歩みを一緒に辿っていただくことで、(出口が見えていないわけではない)並んで歩いてもらったような感覚になりました。
取材後、原稿を何度かやりとりさせていただいた中で、瀬谷さんの言葉「取材とは、相互の気付きを分け合う対話のようなもの」という言葉をいただきました。
とても丁寧に言葉を、写真を、紡いでいただきました。
この出会いに心より感謝しています。
ぜひ下記のリンクから、よかったらお読みくださいませ。
#Repost @tokyobike_jp
・・・
連載「Life on two wheels 」自転車の話をしよう」。
第5回は、『HOLY’S』の屋号で活動する、ニット作家の保里尚美さんに、自転車からはじまる人生のお話を聞きました。
———————————
真夏にニットを編むのは暑いだろうから、エアコンをガンガン効かせてるんですかって、聞かれることがあります。でも、私にはそれができなくて。夏にそんな楽をして、自分は冬の寒さに耐えられるものを作れるのかな、と思います。
夏の暑さも、冬の寒さも、しっかり感じていなければ、本当に着心地のいいものはわからない。自分の編むものが嘘になってしまうような気がするんです。
(本文より一部抜粋)
tokyobike 谷澤弥恵子
カーテンを直す

この部屋に越した時
10mリネンを買って縫ったんだ
母とイッセイノセで裁断し
アイロンをかけ
ミシンを踏む
窓にカーテンのない部屋から
ひとつずつ
ひとつずつ
あれからもう9年になる
裂けたところに
別の布を当てて
かなり適当だけれど
長くやりたいと思っていたこと
ひとりで
せいせいとした気持ち
ただこれだけ手をかけても
いつかさよならをする時が
来るということ
考えごとに入り込んで