HOLY'S BLOG

就職戦線(私が学生寮で‥vol.4)

45月は、四年生の就職活動のために、受付の仕事も慌しかった。

バブルは弾け、就職氷河期の入口の頃でも、この大学には、大企業からの就職案内がたくさん届いていた。

リクルートスーツ姿の四年生が出入りし、院への進学が約束された人と、早々に内定を得て長期旅行に出掛ける人。

〇〇がどこの商事会社に決まった、というニュースは、否が応でも私の耳にも入ったし、夏を過ぎても汗だくのスーツ姿で出掛ける寮生を見ると、やはり胸は締め付けられた。

学業成績はわからないまでも、要領の良し悪しは何かしら感じられ、彼らの苦悩を耳にすると、その大学名だけではどうにもならない現実を感じた。

今になってみれば、新卒の就職先が一生の仕事になる訳でもないことを、年を取ればとるほど、わかるのだ。

その手の一喜一憂は、いちいち私の生きる世界とは別物であることを実感しながら、影響されていた。

彼らは、地方の実家から送られた学費と寮費でこの4年間、守られて生きてきた人で、その代償を「就職」と言う形で、示さなければならない。

 

 

ある朝、4年生のSさんが、大きめのワイシャツとネクタイ、下着のトランクス姿で受付に入ってきた。

私もその頃には既に、寮生のトランクス姿には慣れていた。

スーツのズボンの裾が降りちゃったので縫って欲しいと言い、Sさんは、手に持った裁縫道具を差し出した。Sさんの部屋と受付まで、ほんの10mも離れていない。

そんなことならと私が繕うと、Sさんは「ありがとう!。」と言って、その場でズボンを履きはじめた。

ベルトをガチャガチャ閉めるあたりで、別の4年生が通りかがり、受付の窓から「??」という顔をした。

Sさんがすかさず「情事の後で。。」とすました顔で言ったかと思うと「いや〜ズボンの裾が降りちゃってさぁ!」と続けた。

Sさんは部活でもいい成績を残しており、就職活動に反映されたと聞いた。さっと内定を決め、学業と部活の合間にバイトもし、3年生までに貯めたお金を持って、アメリカに旅立った。