2022.06.14
母の腕時計
友達と珈琲屋さんでミックスサンドを頬張っていると、コトリと何か落ちる音がしました。
私が付けていた母の腕時計でした。時計とバンドを繋ぐ金具が割れたのです。
文字盤が小さく、母は老眼が進むと、もう少し大きな文字盤の時計を使っていました。
若い母がその腕時計をつける時、それはお出かけの時で、自分で作ったツーピースを着て、いそいそしながらも華奢な腕時計を器用につける姿を見ることは、子供の私は好きでした。きれいだなぁとすら思っていました。
いよいよ引き出しに仕舞われぱっなしとなった時、私がつけることにしたのです。
友達と「ここで落ちて良かったよね」なんて言いながら腕時計を拾い上げ、知ってる修理店を言い合いました。
私は以前、祖母の腕時計の分解掃除をお願いした時計店に持っていきました。
店員さんに「アンティークですか?(ルーペを覗きながら)CHANELですね。」なんて言われて、
ええ、確かにそう書いてあるけど、ロロ・シャネルとかじゃないですか?なんて心の中で呟いていました。
どうやらあのCHANELらしい。
数日経って修理を受け取ると、少しシャッキリとしたCHANELが帰ってきました。
一介の仕立て屋娘が出来高制のお給料で、CHANELが買えるかしら。
勤め先で社割?
それとも、父からのプレゼント?
今では、私がこの腕時計をつける瞬間が好きになっています。手首をくるっとひっくり返し、小さな留め金に反対側のリングを引っ掛けパチンと留める。小さな鎖が揺れる。
そんなことで、少し背筋が伸びるんです。