ボタンホール
カーディガンの仕上げ、ボタンホールを縢る。(かがるって、変換で「縢る」って出たよ)
パリで日本人唯一のテーラーのメゾンを持つ鈴木健次郎氏は、かつて本場フランスで腕を磨くために望むアトリエへ、自身の完璧なボタンホールステッチのサルプルを見せ、働かせてもらえるようになったという。
ニットにもそんなボタンホールがあるはずと針を運んでいると、
時計が12時を振れた瞬間に、母が部屋から飛び出してきた。
早くお昼が食べたくて、それでも12時になるまで我慢したのだという。
母さん、暇なのか。
仕事は自分で作るものよと、教えたのは誰だっけ。
「鍋を火にかければいいのか?」「ご飯はどこだ」と、容赦ない。
朝、仕掛けたスープは、鍋帽子の中で仕上がっているだろう。
「今、ボタンホールしてるんだけど」と言うと、「ごめんごめん」と誤った。
母が服を作る時、ボタンホールに取り掛かると、手が変わるのを嫌い、全てのホールを一気に仕上げた。
そのために子供の私は、母がボタンホールの糸を寄り始めると、ひっそりと息を潜めたものだ。
だから、母も私が怒る意味はよくわかっている。
時間を考えていなかった私が悪いのだ。
諦めて、お昼にした。
母が縢るボタンホールは美しく、私は家庭用ミシンにボタンホールステッチの機能があることなど、大人になって随分経ってから知った。
『大草原の小さなお家』のローラ・インガルス・ワイルダーは、洋裁の腕を買われ、14才からシャツの縫製で稼いだ。
1時間に、ボタンホールを60数個仕上げそうだ。
母に話すと、「そんなことはあり得ない」と一掃された。
「本当なら相当いい加減なホールのはず」とも。
ニットにおける完璧なボタンホールは、まだわからない。
ステッチの中に芯糸を挟む方べきか、あまり分厚くなってはいけないし、芯になる糸の重なりは作ってある。
今回のボタンはメタルでジャケット使用。
裏ボタンには、光沢のあるイタリアンレザーを使う。
ネームは付けた。
ボタンは明日、仕上げ洗いを終えてから。