広島に呼ばれて
昨年11月末、私は6日間ほどの旅に出た。
その10月に「一生ものアラン」を出版し、いくつかのイベントが終わった束の間の時間だった。
旅の目的は、長野は穂高市、山岳美術館で行われた友人、山本葵ちゃんの製作する山バッチの金型原型展「手のひらの山」を観に行くためだった。
葵ちゃんが長年の夢だったことは、わかっているから、自分のひと仕事が終わり、今なら行けると急遽決めた旅だった。
「一生ものアラン」出版直後から、ありがたいことに東京の本屋さんでのフェアを開催していただき、WSも行った。
息つく暇もなく、慌ただしく過ごしていて、エアポケットのような数日間だった。
穂高と長野により、大阪の万博公園で行われていた手紙社の催しに参加する「cosakuu」さんにも会いに行った。彼女は「一生ものアラン」でモデルとして登場してくれている。
夜に京都に立ち寄り友人に会い、一泊だけして、神戸に向かった。
どうしても行きたい店があった。
須磨海浜公園駅にある「自由港書店」。
「働くセーター」が出て1年ほどたったの頃だったか。編集者さんからのメールで、その存在を知った。
Xにて「働くセーター」とゴフスタイン絵本について、しっかりと読み解いて紹介してくださっていた。
私は感激し、私からお送りできる働くベストのリーフレットや「わたしの一生もの」など、いくつかの手筈をしたのだ。
店に着くと、細い間口の入り口からお客さんが3人いらっしゃるのが見えた。それで店はいっぱいだった。
表で外から見える背表紙を見て、お客さんが出られるのを待った。
店主と思われる男性が「あっ」という表情をなさる。
お客様がひとり、ふたりと出られたので、私は店に入った。
「はじめまして」から、少しずつお話をする。
本屋が、今仕事の全てではなく、4日間は別の仕事をしていて、できればこれから本屋一本でいきたい。
本屋をする場所を探していて、この場所に行き着いた。
トツトツと、これまでのこと、これからのことを伺う。
棚に並ぶ本が一冊一冊、清潔で丁寧に並べてある。
多すぎず少なすぎず。
本も息をするように並んでいる。
いくつかの本を選び、レジに行くと、広島の素描画家のshunshunさんが描いたCDジャケットが目に入る。ピアニスト橋本秀幸さんのCDだった。
「うちではこれだけをかけています」
shunshunさんにも「一生ものアラン」にモデルとして出演してもらっている。
このCDも買うことにした。
その時、私がすでに手にしていたのが、原民喜「幼年画」。装画は、nakabanさん。
彼も広島在住の画家である。
原民喜の「夏の花」は読んでいたが、その本は知らなかった。
装画がnakabanさんなら、うちに連れて帰るしかない。
旅の終わりに、神戸でこれだけ、広島の作家に出会うとは。
お前の帰る場所は、ここだよと言われているような気がした。
根無し草なので、いつまたどこに動くかわからない。でもまだ私は広島でやるべき仕事があるのだろう。
私は須磨から広島に帰った。
2023年12月のこと。
今朝は、2024年8月6日。
原爆記念日をこの本を手に取る。